豆太郎は、キジバトの子供です。
おとうさん、おかあさんと一緒に川のほとりの木に住んでいます。
豆太郎の住んでいるところには、いっぱい草や木が生い茂っており
春、夏、秋と食べるものに困りませんでした。
でも、冬になると、草は枯れてしまい、わずかに残った木の実は
あばれんぼうでくいしんぼうのヒヨドリたちにひとりじめされて、
豆太郎たちは食べることができません。
仕方ないので、毎日、
豆太郎は、おとうさん、おかあさんと一緒に、遠くの畑まで、ごはんを探しに行きます。
でも、冬の畑には、ほとんど何もなく
豆太郎たちは、刈り残された稲穂のお米をついばむしかありません。
たまにちいさな豆がみつかればごちそうでした。
だから、
半日、ごはんを食べ続けても、ちっともおなかいっぱいになりません。
”おかあさん、おなかいっぱいたべたいよう”
豆太郎は、いつも、おかあさんを困らせていました。
そんな冬のある日のこと、不思議なことがおきました。
夕方、ごはんを食べた豆太郎たちがおうちに帰ると、
いつもよりたくさんのヒヨドリたちが、木に群がっていました。
”なんだろう？”豆太郎がそっと覗くと
おいしそうな、みかんやリンゴが木に刺してあり、
ヒヨドリたちはみんなそれを夢中で食べていました。
”おかあさん！なんだろう、なんで、みかんがあるんだろう？”
豆太郎は聞きました。
”さあ、なんでかしら？不思議ね・・人間の仕業とおもうけど・・”
”人間？”
豆太郎は考えました。
人間はとても怖いものだから、近寄ってはだめ！といつもおかあさんに言われます。
でも、そうなのかなあ、
あんなおいしそうなみかんをくれるんだもの・・
友達なんじゃないかなあ・・
ぼくたちにも何かくれればいいのに・・・
そう思った豆太郎ですが、怒られそうなので、おかあさんには言いませんでした。
ところが、ほんとに不思議なことは次の日におきたのです。
あんなにいっぱいいたヒヨドリたちが、ほとんどいなくなっていたのです。
残ったヒヨドリたちも大騒ぎでした。
なんでも、雷のような音がしたら、仲間が消えたと言うのです。
みかん色の服を着た人間を見たという者もいました。
そして、共通して言えることは１つでした。
仲間が消えるのはきまって、木に刺したみかんやりんごを食べに行った時だと言うのです。
それを聞いたおかあさんは真っ青になり、つぶやきました。
”ハンター・・・”
”はんたあってなに、おかあさん？”豆太郎は聞きました。
おかあさんはふるえながら、答えました。
”ハンターは人間の中でも、一番怖いのよ。
ハンターは雷のような音がする棒をもっていて、それで私たちを捕まえてたべちゃうの。
ほら、豆太郎も覚えているでしょ、
キジのおじさんが羽根にけがして、山奥へ引っ越しちゃったこと？
おじさんも犬を連れたハンターに追われて、けがをしたのよ”
”ふうん”
豆太郎は考えました。
雷なんてぼくは怖くないし、犬なんてへっちゃらだ。
よく人間に連れられている犬をみるけど、
わんわん吠えるだけでちっとも怖くないや。
でも、また怒られそうだったので、豆太郎は何もいいませんでした。
次の日。
”今日はあたたかいし、風もないから、もっといっぱい食べ物のある畑を探してくるわ。
豆太郎はいつもの畑に行ってごはんを食べてきなさい。
寄り道しちゃだめよ、いいわね？”
おかあさんはそう言うと、おとうさんと一緒にでかけました。
豆太郎は溜め息をつきながら、いつもの畑へ飛び立ちました。
”あんな遠くの畑に行っても、食べ物は、ちょっぴり・・
あーあ、いやだなあ・・”
ところがです。
川原に何か見えます。
”なんだろう・・・”豆太郎はちょっと寄り道してみました。
すると、どうでしょう！
川原一面においしそうな豆が撒かれているではありませんか！
大豆、小豆、エンドウ豆、みんな豆太郎の大好物です。
”すごいや！”
豆太郎は、思わず、大豆を一粒、ついばみました。
”おいしい！”
もうとまりません。二粒、三粒・・・・とどんどん夢中で食べました。
二十粒も食べて、やっと、おなかいっぱいになりました。
おなかいっぱいになるなんてひさしぶりです。
それでも、まだまだ、豆はいっぱい残っています。
”これだけあれば、おかあさんもおとうさんもおなかいっぱい食べても
まだまだあまるよ！こんなおうちのちかくにおいしいお豆があるなんて
うれしいなあ”
豆太郎は喜んでおうちに戻りました。
夕方、おかあさん、おとうさんがヘトヘトになって帰ってきました。
だいぶ、遠くまで行ったのですが、どこにも餌場がなかったのです。
あっても、ヒヨドリやカラスたちに占領されていたのです。
がっくりしているおかあさんたちに豆太郎は今朝の話をしました。
すると、おかあさんは真っ青になり、豆太郎を叱りました。
おとうさんも叱りました。
豆太郎はびっくりして泣いてしまいました。
おかあさんは優しく諭すように豆太郎に話しました。
”いいかい、豆太郎。豆は畑に人間が撒くもんなんだよ。
あんな川原に撒かれているなんておかしいんだよ。
こないだのヒヨドリたちの騒ぎがあったでしょう？
たぶん、ハンターが来ているの。だから、絶対、行っちゃだめ！ わかるわよね？”
豆太郎はうなずきました。
それから、一週間たちました。
寒さは益々厳しくなり、食べ物もほとんどみつかりません。
豆太郎たちキジバトも、普段は食べない草の実をついばんで
飢えをしのいでいました。
その朝、豆太郎は、おなかがすいて起きました。
”ひもじいなあ・・・”
ふと、川原をみると、カラスたちが群がっています。
カラスたちが、ついに、川原に撒かれた豆を見つけたのです。
”ああ・・・豆が・・なくなっちゃうよう”
でも、カラスは凶暴で、キジバトの豆太郎では近づくこともできません。
豆太郎は、カラスたちが豆をおいしそうに食べるのをじっと見ていました。
おなかはもうぺこぺこです。
すると、どうしたことでしょう。
カラスたちが一斉に飛び立ち、いなくなったのです！
豆太郎は、思わず飛び出しました！
”少しぐらいなら、だいじょうぶ！カラスたちもなんにも
されなかったじゃないか！へいきさ！ おかあさんたちが起きる前に
ちょっとだけ・・”
豆太郎は川原におりました。
豆はいっぱい残っていました。
”わあい！”
豆太郎は夢中でついばみました。
甘い豆の味がしみわたります。
お日様が出てきて、川原の気温もぐんぐん上がり初めました。
ぽかぽかです。
豆太郎は、嬉しくなって、歌を唄いました。
”まーめ、まーめ、きんのつぶ♪ あまーい、あまーい、きんのつぶ♪”
そのとき。
豆太郎はなにかミカン色のものが茂みにいるのに気付きました。
でも、まだまだ、おなかはすいています。
豆太郎は、ちょっと気になりましたが、首をさげ、豆を口にくわえました。
”？”
太陽の光が、なにかに反射して光りました。
にぶい黒い光・・・見慣れない冷たい光。
そして。
豆太郎は、口にくわえた豆をぽろりと落としました。
茂みの中に、みかん色の服を着た人間がたち、手には、長い筒。
その反射した光が豆太郎を照らしていたのです。
その筒先は豆太郎にまっすぐ向かっていました。
”あぶない”
豆太郎は飛びました！
いえ、飛び出そうとしました。
その瞬間・・・・・・
ダアアアアアン
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
静かな朝の川原に雷のような音が響きました。
そして、一瞬の後、何事も無かったような静寂が戻りました。
その日の昼、
川原に犬の散歩にきたおばさんは、
犬がなにかの臭いをかいでいるのに気づきました。
”コロ、なあに？”
コロは、落ちているなにか鳥の羽根のようなものの臭いを、
くんくんとかいでいました。
ふと、おばさんは空を見上げました。
そこには、何かを探すように、
ずっと空を飛びまわっている２羽のキジバトがおりました。
冬とは思えないほど、ぽかぽかとした、暖かい日の出来事でした。
（おしまい） |
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