鶏子ちゃんは、鶏の子供です。でも、もう、ひよこじゃありません。
白い綺麗な羽根が自慢です。
おかあさん、おとうさんはだれだかわかりません。
でも、ひとりぼっちじゃありません。
鶏子ちゃんのお部屋には３０羽の同い年の友達がいっぱいいます。
鶏子ちゃんのお部屋は不思議なところです。
廻りを鉄格子で囲まれており
その中にぎゅうぎゅうに友達がいます。
そして、お水とごはんはいつでも食べられるようになっています。
ある日の朝のことです。
鶏子ちゃんがごはんを食べていると
見たこともない子がお部屋の外にいました。
その子は、なんと飛んでいるのです。
それに色も黒っぽくてしっぽが長くて、鶏子ちゃんとは全然違います。
”あなたはだあれ？”鶏子ちゃんは聞きました。
すると、その子は答えました。
”僕はヒヨドリのピー太郎。おなかぺこぺこなんだ。
ここのごはん食べてもいい？”
”いいよ、いっぱいあるから。”鶏子ちゃんは言いました。
すると、その子は、がつがつと餌を食べ始めました。
”おいしい？”鶏子ちゃんが聞くと、その子はちょっと
首を傾げて答えました。
”うん、おいしいけど、なんか、クスリ臭いなあ・・”
”そうなの？”鶏子ちゃんにはよくわかりませんでした。
だって、鶏子ちゃんは、ここのごはんしか食べたことはないのです。
しばらくして、ヒヨドリの子は言いました。
”ごちそうさま。いま、山にも畑にも餌なくってさあ。ここはいいね。
温かいし、ごはんあるし。”
鶏子ちゃんはほめられてうれしくなり言いました。
”ピー太郎くんもここに住めばいいのに？”
ところが、ヒヨドリの子は首を横にふって答えました。
”でも、僕はそんな狭いところじゃいやだよ。外は寒いけど
自由に飛べるから。あと、ここはお日様がないからなあ。”
”お日様ってなあに？” 鶏子ちゃんは聞きました。
すると、その子はびっくりして言いました。
”お日様を知らないの？
そうかあ、ずっとこの部屋にいたんじゃ仕方ないか・・・
お日様はね、遠いお空でぴかぴか光っていてまぶしくて
でも、とっても温かいんだ、それに外の世界は・・”
そこまで言いかけたとき、ガチャっとドアの開く音がしました。
ヒヨドリの子はあわてて羽根を広げて言いました。
”やばい、人間だ！じゃあね、鶏子ちゃん。僕はもう行くよ。
ごちそうさま！”
そして、すいーっと飛び、どこかに消えてしまいました。
”・・・・”
その日から、鶏子ちゃんは、ずっと、お日様のことを考えていました。
鶏子ちゃんのお部屋にも、ぴかぴかひかる明かりはあります。
でも、暖かくないし、すぐ近くにあります。
”お日様ってなんだろう、いいなあ、見てみたいなああ・・・
もう一回、ピー太郎くんにお話してもらいたいなあ、
また、ごはん食べにこないかなあ。お日様の話聞かせてほしいなあ”
鶏子ちゃんは、そう思いました。
でも、ピー太郎君は何日まっても、もう現れませんでした。
ですが、ある日、鶏子ちゃんの望みはかなえられることになりました。
その朝、鶏子ちゃんはいつも通り、ごはんを食べていました。
すると、いつもごはんをくれる人間が来て、なにかごそごそしています。
と、どうでしょう。
鶏子ちゃんのお部屋ごと、動き出したではありませんか！
鶏子ちゃんも友達もびっくりしてばたばたと騒ぎました。
こんなこと初めてです。
そんな間にも、鶏子ちゃんのお部屋はどんどん動いていきます。
そして、
目の前に大きな壁が来たとき、
突然、その壁がガラガラと音をたてて、上に引き上げられました。
その瞬間
いままで見たこともないまぶしい光が広がったのです。
鶏子ちゃんのお部屋は、そのまま、その光の中へすすんでいきました。
そこは
とても広くて
まぶしくて
暖かい
きれいな
世界でした。
鶏子ちゃんにはわかりました。
これがピー太郎君の言ってた世界だってことが。
あのお空にあるまぶしくて暖かいまあるいのがお日様なんだ・・・。
けれど、
鶏子ちゃんがお日様を感じられた時間はすぐ終わってしまいました。
また、別の壁に覆われたちいさな建物に入ってしまったのです。
”あーあ”
鶏子ちゃんはがっくりしました。
でも、いいや。また、いつか、お外に出られるんだ。
そしたら、ピー太郎君にも会えるかもしれない。
鶏子ちゃんは思いました。
”それにしても、こんどのお部屋はなんか、へんなところだなあ。
うるさいなあ・・それにあのつり下がっているピンク色のカタマリは
なんだろう・・・”
鶏子ちゃんがそうつぶやいたとき、
今まで、開くことのなかった鶏子ちゃんのお部屋の鉄格子が
開きました。
そして、、、、、、
ある冬の暖かい日
おかあさんと一緒に、ちいさな子が公園にやってきました。
おかあさんはお日様がぽかぽかとあたるひだまりの
しばふの上に座り、お弁当を広げました。
”わあい、今日のおかずは、トリのカラアゲだ、大好き！”
その子は大喜びでカラアゲにかぶりつき、もぐもぐとおいしそうに
たべました。
おかあさんは、それを見て、ニッコリと笑いました。
ふと、空を見上げると
一羽のヒヨドリが飛んでいました。
”もうすぐ春ね・・”
おかあさんはつぶやきました。
（おしまい） |
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